石牟礼道子

ああ このような雪夜じゃれば ひょっとして ここらあたりの原っぱの 赤いひがん花の 花あかりのもとで 身づくろいしておった あの しろい狐御前の子に また生まれ替わるのかもしれん いまはまだ けやきの大樹の根元にいて 天の梢から降ってくる雪にうたれながら みえない繊い糸を くわえ くわえ うなじを反らしているばかり 手も無か 足も 無か 目も無か めめんちょろの 野蚕さんになっておって 這うて漂浪くのが 役目で ございます